言いたいことはすぐ言う

口が過ぎれば足を取られます。基本的にはWord2ページ程度

薬をください。

地元紙の一面にその記事が載っていた。
要約するとろくすっぽ患者を“診療せず”薬を処方していたとのことだ。
無診察処方に当たるらしい。

 

その医師の科は“精神科”。
その日、久々に知り合いの精神科の知人と会えたのでお茶に誘って聞いてみた。
本当に偶然だったし、興味もあった。
友人もその記事を見ていて、少し物申したいところだったらしい。
抹茶ラテを啜りながら『正直難しい』と友人は言う。

 

友人は確かに、人の心を引き出すのが上手い。
本人はマンツーマンの診療を行って、基本的には家族だろうと介入させない。

『患者には出来るだけ同調する。僕は。』
目に見えない患者の気持ちに寄り添うわけだから多分そうなのだろう。

しかし一方で
『同調しすぎるとこっちが引きずり込まれる。』

 

友人はよほどのことが無い限り、初回以降は短ければ5分程度で診察を終えるらしい。
入ってきた雰囲気で本人の感覚を掴み、
相手の“これを言いたい”に対する質問を投げかけ、その返答で概ねその患者の“その日の状態”を知るらしい。
まるで手のひらの上でころころコントロールしてるみたいだ。

 

『その日だけ調子が良いなんてこともあるけど・・・。』
その友人も患者が増え、めっきり眠れなくなり、睡眠薬のお世話になっているらしい。

精神科の難しさは当たり前だが、医者の目でしか診断できないことらしい。
『例えば骨折したならレントゲンとか、乳がんだったらマンモグラフィーとか(ここら辺は私にはわからない)証明できるけど、
精神科で一通り検査を済ませてしまえば後は主治医が主軸の治療法を提供しないといけない。


患者も多少不安になるよ。処方された薬がプラシーボだと思う患者もいるかもしれない。自分も眠れないし、少し患ったから自分の事は多少分かる。
それだけに、(あぁ、このラインであればこの薬で大丈夫だ)とか思うし、僕の主治医の意見も大体同じだ。』
受診している本人が自己分析をするというのも不思議だがその界隈では当たり前なのだろうか。

 

『その人は多分、自分に自信を持ち過ぎてしまったか、本当に体調を崩したとかかもしれない。
仮に“鬱アピールしてきた患者”がいて、鬱じゃないと診断したら今度はヒステリックになるかもしれない。それはそれで多少歪みがあるかもしれないけどね。


だとしても自信があるなら薬だけ出すっていうのもおかしいし、体調不良ならほかの病院を紹介するとか方法はあるんじゃないかな。』
なるほど、要は“分からんでもないが医者として間違ってる”ということなのだろう。

 

「じゃあ、患者が別な病院に行けば良いのにね。セカンドオピニオンとか、あるじゃない。」
『広がってるのは言葉だけだよ。
大抵精神科に来る患者は紹介か、誰かからの勧めのことがが多いと思う。
基本的に初診は本人の意思では来れない人が多い。そんな当の本人はそもそも他の病院をあまり知らなかったりするし、あまり公に出したがらない。』

 

「まぁ、“歯科”と“精神科”って何かハードル違うしね。」
『・・・けど同じかな。医者である限り患者を診るのが仕事だ。
信頼関係じゃないよ。医者は手伝いしかできない。後は本人次第だよ。』

 

ブラックジャックでそんな台詞を見た気がする。」
『当たり。そこが分かるところがいいね。法律なら君の方が詳しいだろ。
新聞を見る限り、その人はれっきとした法律違反を犯してるよ。』
そういってズズっと残りの抹茶ラテを啜り、『時間だから』と帰った。

 

一人残った私はハニーラテを飲みながら考える。約20分の短い会話。
心地よくあっという間だった。
そして彼は一言も新聞の医者を“医者”とは言わなかった。