読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

言いたいことはすぐ言う

口が過ぎれば足を取られます。基本的にはWord2ページ程度

逃げなくて済む恥ならかいてこい。

社会人旅行 心象写真

12月22日。
某洋服店中。
前日、忘年会でしこたま係長に説教を食らった私は人生初めての経験をしようとしている。

その日の係長は妙に酒の周りが早かった。
『お前、自分自身に対する女子力に対してネガティブだよな。』
「え~そうっすか?」
飄々と返すが内心ぞっとした。

元々ネガティブな自分が、他人を傷つけず、なおかつ笑って時間を過ごす方法。
いわゆる「自虐ネタ」でいつも飲み会の話題を捻出していた。
未だ年功序列が主体のこの職場では下っ端が失敗談で笑いを生むことは少なくない。
また、自分の容姿もどちらかというと男性っぽさを出し、化粧もしたことがほとんどないほどだ。

だがそれを指摘されたことは無い。
考えれば目の前の係長。昔は”鬼の”なんて枕詞が付く百戦錬磨の修羅場くぐりだと聞いているし、実力も幾度と無くみてきた。

その目が私を射抜く。
この時点で勝負は決まっていたのだが、無駄な抵抗とばかりにあがく。

『女子らしさから逃げてるだけじゃない?』
「いや、大抵の女子は石原さとみさんとか長澤まさみさんとか可愛くなりたいに決まってるじゃないですか!」

『じゃあそれに叶った行動してる?』
「それは素材というか・・・」

「近づこうとしてる?」
自分の逃げ前提の薄っぺらい言葉がことごとく粉砕され、係長の言葉が図星を射る

声や顔こそは怒っていなかったものの、諭すように説教を始めた。

『人生、どう動いても逃げるしかない状態で逃げるのはしょうがないけど、
逃げるをそう簡単に言い訳にしない方がいい。
僕も家族がいたからこそ逃げられなかったけどどうにも動けない時があった。
この場だから言うけど、身の丈に合った20代女性として相応しい装いがある。
写真で見た成人式の振袖は綺麗だった。だから女性らしくというわけじゃないけど・・・』
そう言ってお湯割りのグラスを傾ける。

『お前、自己投資しろ。本も漫画も確かに知識としての自己投資だが、女性として自分自身に投資しろ。化粧をして、漫画に使う金をそっちに傾けろ。
・・・いつも変わり映えのしない娘が少しスカートを着たら・・親は安心するんじゃないか?親の為にしろとは言わないが。』

 

今の自分の上っ面を全て否定された気がした。
何より自分自身もオタクである係長からそんな言葉が出るとは思わなかった。

その後程なくお開きになり、帰り際泣きそうになった。

丁度次の日別件で休みを取っていた合間に服屋に駆け込み、スカートと丸襟のシャツ。
4年間ほぼ変わらなかった服装を変えてやろうと半ば復讐の意味を込めて試着室に入った。

 

しばらく言葉が出なかった。

 

余りに女子として“普通の恰好”が出来てしまっているのだ。
今まで“似合わない”“嫌だ”とあれだけ嫌っていたスカートが似合うとまではいかなくても不自然じゃない。

悲しくなった。
どこか“ありふれたくない”とタカをくくっていた自分が打ちのめされるのが見える。
半ば失意で、しかし妙な達成感でレジを済ませその日の夜。
実家で母親に「おかしくない?」と着てみせた。
『わぁっ。似合うね。』
別に不思議がる様子も無く手放しで褒められた。
今まで私服で丸襟を、スカートを着たことのない娘がいるのに何も聞いてこない。

「やっぱり娘には可愛い恰好してもらいたい?」
『うん。』
即答だった。

「昨日・・・」係長に言われたこととスカートを買った経緯をかいつまんで説明した。
『係長、言う方も苦しかったかもよ。親でも言えないことを部下に言ったんだから。』
ある意味私の人生を変える説教だったのかもしれない。
・・・と同時に係長の図星を射た説教がじわじわと心を浸食し始めた。

その晩、実家の自分の部屋で声を殺して泣いた。
自分のどこかが崩れて、別な箇所が見えてしまったのだ。
多分“進歩”だとか“成長”だとか例えるのかもしれないが、他人には余りにも些細でどうでもいいことなのだろう。

次の日、ある意味感謝を込めて笑われるのを覚悟で人生初めてのスカート出勤をした。
『グレーが多いね☆』
気づいた係長からの最初の一言だった。

せめて褒めろよ。
その言葉をどうにかして呑み込みながら慣れない一日を、人生初めての日を過ごした。


星野 源 - 恋 【MUSIC VIDEO & 特典DVD予告編】